ベトナム戦争映画の大傑作『プラトーン』の凄さを解説

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今回は、先日午前10時の映画祭で見た映画について。

映画史に残る傑作なのにまだ見れていなかった「プラトーン」を最近見たので、この映画のことについてまとめていこうと思います。

まあ分かりきってることだけど、傑作でしたよ。

プラトーンとは

「プラトーン」(Platoon)は、1986年に本国で公開され、1987年に日本で公開されたアメリカ映画。

第59回アカデミー賞では作品賞、監督賞、編集賞、録音賞の4部門を受賞、今では反体制的な作品を多く手がける巨匠として認知されているオリバー・ストーンという監督を、一躍スターダムに押し上げた、彼の代表作だ。

題名の意味するものは、30名~60名編成の小隊。主人公の目を通じて、ベトナム戦争についてありのままに描いた傑作戦争映画として認知されている。

ポスターに描かれているこのポージングはあまりにも有名。映画を見たことのない人でも、絶対に見たことがあるような、超有名なポーズだ。

ベトナム戦争を描いた作品ですが、このジャンルの中でも最も評価されている作品の一つ。
この作品がつくられる以前に作られていたベトナム戦争映画の中で映画史に残る有名な作品は、「ディア・ハンター」と「地獄の黙示録」の二本。この二つのベトナム戦争映画のリアリティのなさに憤ったストーンは、従軍経験を活かしリアルな戦争映画を作り上げた。

これこそが、初のベトナム戦争映画なのだ。

あらすじ

クリス・テイラー(チャーリー・シーン)は、同年代の黒人や少数民族、貧困層の若者がアジアに戦争に行かざるを得ない現実に憤り、両親の反対を押し切ってベトナムの地を踏んだ。カンボジア国境付近に駐屯する陸軍歩兵師団に配属されたクリスは、その小隊を仕切るバーンズ(トム・べレンジャー)とエリアス(ウィレム・デフォー)という二人の軍曹らと任務を共にする。だが戦況は次第に過酷さを増し、小隊は泥沼へと引きずり込まれていく―。

(午前10時の映画祭公式サイトから引用)

「プラトーン」の監督・主要キャスト

次にこの作品の監督と主要キャストについてまとめます。

監督 オリバー・ストーン

本作と「7月4日に生まれて」でアカデミー監督賞を2度受賞、「ニクソン」や「ブッシュ」、最近では「スノーデン」など、政治について描いた社会派作品や、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」に代表される反体制的な作品を多く撮ったオリバー・ストーン

今となってはハリウッドの巨匠の一人である彼は、まだ二十歳になりたての頃、イェール大学を中退し小説家を目指していた。しかしほとんど相手にされず、父親からも見放されていた。そして、自殺をしに行くような形で、1967年からアメリカ合衆国陸軍に従軍。この従軍の記憶は彼の人生に大きな影響を与えることになる。

除隊後はマーティン・スコセッシのもとで映画制作を学ぶことに。つまりはストーン自身、スコセッシの代表作「タクシードライバー」の主人公トラヴィスのようなベトナム帰還兵だったのだ。実際ストーンは生活のためにタクシードライバーとして働いている。

そんなこんなでベトナムから帰還して8年後、「プラトーン」のシナリオをかきあげたストーンは、いろいろな映画会社にシナリオを送るが、なかなか相手にされない。アメリカの負の歴史を取り扱った映画を撮影しようと考える者がいなかったことに加え、80年代に入ったらレーガンが右翼的な政治を推し進めていたため、なかなか映画化したがらなかった。

そんな中イギリスの会社が資金提供し、600万ドルという破格の安さで作られたこの作品が世界中で大ヒット、アカデミー作品賞までも受賞し、一躍注目の監督にのし上がった。これはある意味「ロッキー」とおなじようなアメリカンドリームではないのかと思ったりもする。

「クリス・テイラー」役 チャーリー・シーン

本作で主人公を演じるチャーリー・シーンは、この作品で大ブレイク。今作と同監督の「ウォール街」でスターに。

しかし、いろいろとやんちゃなことをやらかしており、私生活では麻薬や暴行事件などの不祥事の多いトラブルメーカーとして知れ渡った。

90年代頃は完全に干されていたが、2000年代にテレビでコメディドラマ俳優として人気が再燃。しかし不祥事は続き、今もなお、お騒がせ俳優として認知されている。

というか、この作品を見るまでチャーリー・シーンの映画を見たことがなくて、お騒がせ俳優としての記憶しかなかったんですけど、そんなお騒がせっぷりが信じられないような、いい役を演じていますよ。

あとお父さんは「地獄の黙示録」のウィラード大尉役などで知られる俳優のマーティン・シーンです。親子そろって映画史に残るベトナム戦争映画の主人公を演じているってなんかおもしろいですね。

「エリアス・グロージョン」役 ウィレム・デフォー

主人公が心から尊敬できるような、父のように描かれているエリアス軍曹。アメリカがベトナム戦争に負けることを見越しており、それでも自我を保とうとしている人間味のあるキャラクターだ。

この役を演じるウィレム・デフォーは、「ミシシッピー・バーニング」や「7月4日に生まれて」などの社会派作品から、「処刑人」や「スパイダーマン」まで、幅広い役柄を演じる演技派として認知されています。最近では、「フロリダ・プロジェクト」での好演も記憶に新しいですね。

本作「プラトーン」と吸血鬼を演じた「シャドウ・オブ・ヴァンパイア」で2度アカデミー助演男優賞にノミネートされています。

「ボブ・バーンズ」役 トム・ベレンジャー

クリスが所属する歩兵部隊のバーンズ曹長。エリアスが優しい人として描かれていたのと対象的に、戦争で心を失った冷血漢として描かれている。

過去に7回も過酷な銃撃戦から生還したことから、「不死身の男」と呼ばれており、彼の顔には大きな傷跡があり恐れられている。

このバーンズを演じたトム・ベレンジャーは本作「プラトーン」でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。エリアス軍曹役のウィレム・デフォーとは、同じくオリバー・ストーンが監督した「7月4日に生まれて」で再び共演。また「メジャーリーグ」シリーズではチャーリー・シーンと共演していますね。

ちょい役にあの人が

ちょい役に今となっては大スターなあの人も出てたりします。

主人公と同じ小隊に所属する通訳兵ラーナーを演じるのは、当時22歳で、まだ無名時代のジョニー・デップ

そもそもジョニー・デップが主人公クリスを演じる予定だった。しかし、無名だったことと若かったことから断ったと言われています。しかしオリバー・ストーンは後にスターになるだろうと思いちょい役に起用したらしい。先見の明がすごい。

なんとなく見てたらオープニングのクレジット表記でJohnny Deppと表記されていてテンションがあがりましたね。

次に有名なのはフォレスト・ウィテカーですね。「ラストキング・オブ・スコットランド」では食人大統領として悪名の高いウガンダの独裁者、アミン大統領を演じて話題になりました。アカデミー賞も受賞しましたね。あと最近では、「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」「ブラックパンサー」にも出演している俳優さんです。

今見てみると割と豪華なキャスティングなのも面白かったりします。

「プラトーン」の凄さ・面白さを解説

徹底的なリアリズム

この作品は、実際にブートキャンプを行い、キャストを地獄のような環境でしごきあげたことでも有名だ。最近の作品ではデヴィッド・エアー監督の「フューリー」でも行われていたが、戦争と全く同じ状況を体験させ、身体に染み込ませたのだ。

また、食事も配給の缶に限定し、無論シャワーを浴びることも許可しなかった。オリバー・ストーンが体験した戦争の記憶を再現するために、徹底的にキャストを疲れさせたのだ。

オリバー・ストーンはこのように戦場のリアルにこだわった。マーロン・ブランドがぶくぶくに太って撮影所に現れた「地獄の黙示録」とはキャストひとりひとりの気合の入れようがまるで違うということがわかる。

オープニング、基地にヘリコプターが到着し、黒い死体袋が運ばれる様を何事もないかのようにスルーする様に、主人公たちは呆然とする。

ヘリから地上に降り立つクリスは言わずもがなだがストーン本人だ。愛国心のために大学をドロップアウトして戦争に赴くクリスは、イェール大学を中退して戦争に赴いたストーン自身に重ね合わせられている。

この作品の魅力はなんといっても、監督の従軍経験をもとに、徹底的なこだわりを持って描かれる戦場のリアルだ。元従軍者であるストーンの実体験が反映されており、主人公が目にする、スクリーン上で行われることのほとんどが、その体験をもとにして作られたものだ。

そのため、慈悲もなにもないシーンが続く。新兵は何も教えられないまま戦場に赴く。新兵とともに行動することは自分の命を危険にさらすリスクを高める行為だからだ。また味方同士の汚い罪のなすりつけなども見せつけられる。

そんななかで撮影されたこの作品の銃撃戦はスタイリッシュなものではなく、ドロドロとしたむごたらしさを感じさせるように作られている。そのドロドロさは、画面越しに伝わるリアリティだけでなく、ストーリーにもあてはまる。

ソンミ村の虐殺

この作品の一番のみどころのひとつに、ベトナム民間人に暴虐の限りをつくすシーンがある。もうこれは最早ホラー映画的なトラウマシーンなのだが、ベトナム戦争中に起きた凄惨な事件、ソンミ村の虐殺で起こったことをありのままに描いている。

村に武器があることを知ったバーンズ曹長は、住民たちに暴虐の限りをつくし、子供を人質に取ったりなどして、村長を脅迫する。民間のベトナム人に暴虐的に振る舞うバーンズ曹長を止めようとするエリアスはバーンズと対立することになる。

このシーンは、米兵の視点から描いているとは思えないほど、恐怖を感じさせるつくりになっている。言葉の伝わらない彼らは何を考えているかわからないから、腹いせにとりあえず殴る。

狂人ほど人を殺すという行為に夢中になり、良心を持ったものがお花畑の理想主義者のように描かれる。それは死刑というシステムがパンとサーカス的な機能を果たしているようにしか見えない昨今の我が国にも当てはまるが、自分よりも劣っている(と勝手に思い込んでいる)人間を殺してスッキリしたがる人間の欲望に忠実に、彼らはイノセントな人々を殺そうとする。

そしてこの物語はますますむごたらしい展開になっていく。

とりあえずのまとめ

「地獄の黙示録」では、ワルキューレの騎行が流れるなか芸術的にジャングルが燃え上がるが、「プラトーン」ではそんなシーンはない。スタイリッシュな戦闘ではなく痛みと凄惨さを感じさせるようなシーンが非常に多い。それはちょうどアクション映画とバイオレンス映画の違いとして語られることと似ている。戦争中には快楽を感じさせる暴力など存在せず、良心を持っているものにとってもやもやさが残る暴力しか存在しないのだ。

そしてそのストーンの記憶を蘇らせて作られたこの作品は、観客にトラウマティックな体験を促し、戦争のリアルを体感させる装置として機能した。スタイリッシュなものとは真逆な戦闘のみならず、ベトナムで彼が体験したものをつめこんだ。

ストーンが感情をぶちまけたかのような映像の連続に、観客は度肝を抜かれ、見終わった後には戦争や殺しについて考えざるを得なくなる。

戦争のリアルを伝える作品として、間違いなく成功している。そんな作品だった。

まだ見ていない方は、なるべく早くこの作品を見るべきです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ込で

フラギング

理想主義的な考えが煩わしかったバーンズは、敵対していたエリアスを殺害しようとする。ベトコンにやられたかのようにするため、クリスに死んだと伝えるが、銃で撃たれ死んだかのように思っていたエリアスはまだ生きていた。

仲間に合図を送るが間に合わずそのままベトナム兵にやられて死んでしまう。このときに見せるのがあの有名なポーズ。ネタにされまくっているが、割と衝撃的なシーンなのだ。

中盤の衝撃的なシーン、ソンミ村の虐殺では、レイシズムをむき出しにしたような殺人が凄惨に描かれていたが、意見の食い違った味方をも殺してしまうのだ。

この「フラギング」と呼ばれる米兵による米兵殺しという事実を描いたため、この映画になかなか出資が集まらなかったと言われている。

つまりは、メンタルがバグっているのだ。一度殺人を経験すればもとには戻れない。良心が麻痺し、無感情になってしまう。しかし、その状態にまで堕ちないとこの地から生きて帰るのは難しい。

同族すら殺しても何も感じないということ。これがベトナム戦争のリアルだ。

鹿の意味

終盤、多数の死者を出した爆撃からクリスは生きながらえる。目覚めたとき、隣には鹿がいる。

一瞬だけ映るが、この鹿は一体何を意味しているのだろうか。

映画において鹿とは、「誰かの生まれ変わり」を意味することが多い。例えば今年のアカデミー賞で「シェイプ・オブ・ウォーター」と並んで作品賞候補だった傑作ドラマ、「スリー・ビルボード」では、母のもとに殺された娘の生まれ変わりとして鹿が訪れるというシーンがあった。

この例が最近の映画では最も分かりやすいが、鹿とは「生まれ変わり」を意味する記号なのだ。

つまりは、プラトーンにおけるラストに映る鹿は「エリアスの生まれ変わり」という意味なんですよね。だが、これだけでは分かりづらい。

なぜ分かりづらいのかというと、シナリオにあった台詞を本編で省いたから。
脚本の中では、エリアスは死んだら鹿に生まれ変わりたいと言うシーンがある。

しかし、そのシーンを省いたため、よくわからないような感じになったらしいです。

「聖なる鹿殺し」を映画評論家の町山智浩さんが解説したときに、このことについて触れ、オリバー・ストーン本人に聞いてみたら「カットしてない」と頑なに認めず、「大丈夫かこの人!?」って思ったことを話されていましたが、本人にとって、まだカットされていないと思ってるんでしょうね(笑)。

LOVE&HATE

ラストシーン、ヘリコプターに乗ったクリスは戦場でみたことを言い伝えなければならないと独白する。

オリバー・ストーン自身、ベトナムに行ってそう感じた。自分が生き残ったのは運がよかっただけで、このことを言い伝えるために運命が自分を生かしたのだと。

そして、このことをリアルに映像化して高く評価された。戦争の真実を伝えることに成功した。

ストーン自身にとって、戦争はドラッグのようなものだった。マリファナと戦闘による快感にもノックアウトされていた。快楽も憎しむべきことも、ありのままに描いた。

だが、そんな戦争を肯定する戦わない人たちや、人殺しを立派なこととして褒め称えたり、安易に戦争を仕掛けようと考えている政治家のことを考えると反吐が出ると述べている。

戦場経験がある人間とそうでない人間では戦争に対して明らかな考え方の違いがあると思う。みんなが戦争のことを正しく理解できるとは思わないが、より注意深くそのことを考える必要がある。

ハフィントン・ポスト
「戦場に行ったこともない奴が語る愛国主義には吐き気がするよ」
オリバー・ストーン監督に聞く戦争と歴史 から引用

オリバー・ストーンは本作で、戦争が決して勇ましくかっこいいものではないということを描いた。戦争という殺しの肯定を安易に考えるべきではないのだ。

人を殺せば、もう元には戻れない。そんな戦いを推し進めようとするのは戦場に行ったことのないやつばかりだ。

少なくとも、戦争を考える際には、この作品を見直して考えなければならない。

↓参考文献。おすすめの解説書です。

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