21世紀に楽しむには20点くらいだったアトラクションが、リニューアルによって85点くらいになっていた。
先日、5年ぶりに東京ディズニーランドに行った。
以前行ったときよりもだいぶ期間が空いているものの、新アトラクションなどのリニューアルはあまりなかった。スティッチのアトラクションが増えたくらいか。行ってないけど。
だが最近、ある既存のアトラクションが大きなリニューアルをした。
そのアトラクション、「イッツ・ア・スモールワールド」はお世辞にも人気アトラクションとは言い難いものだった。21世紀に乗って楽しむアトラクションにしては、あまりにも古めかしかったのだ。
「世界はひとつ」というフレーズがひたすら流れる中、金がかかっているとはいえど色彩的に昭和な感じがする風景を見ながら、船で世界一周するこの乗り物。何も考えずにぼーっと見るのにちょうどいいが、こぞって乗りに行くようなアトラクションではない。疲れたときの休憩に適したような乗り物だった。
このアトラクションがリニューアルされた。せっかくなので乗ってみたが、全然期待していなかった分、その体験は衝撃的だった。
どこらへんが衝撃的だったかというと、21世紀ナイズされ、完璧に古臭さから脱却したカラーリング、キャラクターの造形はいわずもがなだが、「最も進化した能動的なアトラクション」に生まれ変わっていたのだ。このアトラクションについて、考察してみます。
アトラクションと能動性
今の時代、テーマパークのアトラクションには、新たなアプローチが必要になってくる。
SNSなどで自分の体験を綴ることができたり、YouTubeやNetflixの登場で、世界中の面白い体験を画面を通じ誰でもアクセスできるようになった結果、受動的に受け止めるだけで価値のあったコンテンツは、能動的に受け取れるようにならないと、感動することが難しくなっていった。虚構を受動的に消費するだけの文化はオワコン化し、自己の能動性こそが鍵となる。
そしてぼくの好きな映画という文化はそこに最も大きな弱みを持つ文化だったりする。
YouTubeとネトフリのある時代に家でも楽しめる動画を劇場に行って見ようとは思わない。そこに求められるのはスペクタクルとミュージカル。他にもある(あってほしい)が、こういった条件を満たさない、劇場で見る意味を見いだせないような作品はこれからどんどん少なくなっていくだろう。
自分が能動的に動くことで価値を創造できるような文化でなければ、これからの時代、淘汰されていく。特にネットで検索しさえすれば、アトラクションの内部や雰囲気を知ることができる今、アトラクションに新しい価値を植え付けなければならなくなった。
そしてそれをオリエンタルランドは完全に理解していたかのようにアトラクションに取り入れていた。
シューティングゲームである「バズ・ライトイヤーのアストロ・ブラスター」とディズニー・シーにある「トイ・ストーリー・マニア」、的を探してライトを当てるゲームである「モンスターズ・インク ライド&ゴーシーク」は、言わずもがな観客の能動性が鍵を握るアトラクションである。
無論それは、ディズニー・シーの「タートル・トーク」のように観客が能動的に参加するシアターアトラクションが増えていることにも当てはまる。
その体験はYouTubeだけでは担えない。自分がプレイすることで受動的に傍観するよりも楽しむことができるのだ。
しかし、船にライドするだけのアトラクションでは能動的に体験したり、新たな価値を創造するのは難しい。
「カリブの海賊」の何がすごかったのか
「カリブの海賊」がジャック・スパロウ・エディションにリニューアルされたところで、その古めかしさは拭えなかった。リアルなジョニー・デップが登場したところで、ほとんどの乗客は、真新しさを感じなかっただろう。
そもそも、このアトラクションが画期的だったのは立体音響だ。今となっては普通だが、1983年にできた当時は、その音響に度肝を抜かれた人も多いのだろう。なにせ、総工費は160億円。「ビッグサンダー・マウンテン」の2倍だ。この莫大な費用の大半を音響に費やした。
今となっては普通だが、デジタル・サラウンドが普通でなかった時代、泥酔した海賊が撃ち合ってるところを船で渡るこのアトラクションのリアルな音に圧倒されていたのだ。
しかしながら、今の時代、映画館で銃撃戦を見慣れているぼくらにとって、そういった楽しみ方をするのは難しくなった。今回音に注目して乗ってみたら、思ってたよりも迫力あるなあとは感じたが、そんなことを全く考えなかったら「どこが面白いの?」と感じるアトラクションであることは間違いない。少なくとも、1983年当時の人とおなじような衝撃的な体験をすることは難しくなっている。
そしてこの「カリブの海賊」は並ばずして乗れる息抜きアトラクションになっている。10分程度待てばよほど混んでない限り乗れるアトラクションになっていて、最初に急流下りがあるものの穏やかな気持ちで乗ることができる休憩所みたいになっている。
そして、前述の通りおなじような役割を担っていた「イッツ・ア・スモールワールド」も、リニューアルされたところで、今風になっただけだろうと思っていた。ちょっとキャラクターを今風に変更して、20世紀的な古臭さ「だけ」から脱却したアトラクションだと思っていた。
しかし、その予想は大きく外れた。
ゲームからインスタ映えへ
実はこのアトラクション、シューティングゲームとおなじアプローチを行っていたのだ。
要は、インスタ映えのアトラクションなのだ。
撮影OK。フラッシュをたかなければ撮影できる。つまりインスタなどのSNSで投稿できるのだ。
そしてこのアトラクションでの「ターゲット」はキャラクターだ。
このアトラクションでは、ディズニー映画のキャラクターを、ウォーリーをさがせ!の要領で見つけるという楽しみ方ができる。
様々なディズニーのキャラクターがこのアトラクションに登場しており、自分の好きなキャラクターを探したり、入ったゾーンからどんなキャラクターが登場するのか推測して探すといった具合で楽しむことができる。
例えば、ハワイゾーンに入れば、ハワイを舞台にしたディズニー映画を思い出し、「リロ&スティッチ」と「モアナと伝説の海」のキャラクターを探すといった感じで、自分の記憶と観察力を使って探す。そして写真を撮る。
つまりは、シューティングゲームと同じく自分のプレイが結果に反映されるアトラクションなのだ。
射撃やかくれんぼと、「イッツ・ア・スモールワールド」のキャラ探しは本質的には全くおなじ。銃・ライトの代わりにスマートフォンでターゲットを捉える。
そしてインスタやFacebookにあげれば「いいねの数」という得点になる。
しかしながら、ただ座って受動的に楽しみたいという人でも普通に楽しめるのだ。
ライトで遊べない「モンスターズ・インク ライド&ゴーシーク」など、全然楽しめないだろうが、「イッツ・ア・スモールワールド」では、ただ傍観しているだけでも楽しむことができるのだ。少なくともリニューアル前のバージョンのときよりも。要は、休憩所としての機能も捨てずに新たなアプローチに成功しているのだ。
つまり、ゲームからインスタ映えに進化することによって、参加するかしないかを選ぶことができるアトラクションになっているのだ。
SNSによる感動の共有が当たり前になった今でこそ、ゲストに求められるアトラクションに完全に生まれ変わっており、しかも旧来の楽しみ方もできる。おそらくこのアトラクションが風化する可能性は極めて低いだろう。
と、乗った後はこんな風に言語化したくてたまらなかったアトラクションでしたね。期待してなかった分、行ってよかったです。