「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」
小説よりも奇妙な事実はかくも複雑

「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」<br>小説よりも奇妙な事実はかくも複雑

カヌー禁止薬物騒動。

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今年の1月、ライバルの飲み物に禁止薬物を盛ったカヌー選手が話題になった。

ニュースで大々的に報道され、否定的な声もかなり聞いた。だが僕はこの事件を聞いたとき、この前ラジオで聞いたある映画のことが頭に浮かんだ。今公開されている「アイ、トーニャ」である。

この映画はトーニャ・ハーディングの伝記映画だ。オリンピック出場経験のあるフィギュアスケーターだが、ナンシー・ケリガン襲撃事件の主犯とされ、フィギュアスケート界から追放させられた。
この事件はトーニャが有力なライバル、ナンシーに暴行を加え、オリンピック出場を辞退させようとしたと報道され、当時のニュースはその話でもちきりだったらしい。

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あらすじ

貧しい家庭にて、幼いころから厳しく育てられたトーニャ・ハーディング(マーゴット・ロビー)。その才能と努力でアメリカ人初のトリプルアクセルを成功させ、92年アルベールビル、94年リレハンメルと二度のオリンピック代表選手となった。しかし、彼女の夫であったジェフ・ギルーリー(セバスチャン・スタン)の友人がトーニャのライバルであるナンシー・ケリガンを襲撃したことで、彼女のスケート人生の転落が始まる。

 

一番しっくりくる例えは

フィギュアスケート版グッドフェローズ

この例えが一番しっくりくる。「グッドフェローズ」とはギャング映画の巨匠マーティン・スコセッシが監督した名作。
一人のチンピラがのし上がり、没落していくさまを実話をもとに描いている。数年前に同じ監督により制作された「ウルフ・オブ・ウォールストリート」は「金融版グッドフェローズ」と評された。
実在の起業家、ジョーダン・ベルフォートがどん底から億万長者になり、やがて詐欺で逮捕されるまでを「グッドフェローズ」と同様ハイテンションで描いた。

そして「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で主人公のトロフィーワイフを演じたマーゴット・ロビーが今回の作品で主人公トーニャを演じた。
実際にフィギュアスケートを習得し、熱の入った演技を見せる。素晴らしいスケートシーンも本作の見所だ。

ストーリーは先程あげた2本のスコセッシ映画と似通っている。ホワイトトラッシュと揶揄されるような貧乏な家庭で生まれ育ったトーニャは無教養、金もないし親からの愛もない。そんなどん底からスケートの才能を開花させアメリカ人初のトリプルアクセルを成功させ、オリンピックに出場するまでになる。アメリカ中から愛される女性にのし上がったのだ。
しかし、そんな彼女を揺るがしたある事件が揺るがす。ナンシー・ケリガン襲撃事件だ。

全員本物

この事件はトーニャが引き起こしたものだと思われているが、実はそうでもなく、トーニャの元夫の腐れ縁のバカが引き起こしたものだった。このバカがものすごく強烈なキャラクター、ほんとにいたとは信じられない。しかしエンドロールで全く同じようなやつが出てきて劇中で出てきたことを喋っている。

映画コメンテーターのLiLiCoさんもおっしゃっていたけど、全員本物だと信じられない。アリソン・ジャネイが演じたトーニャの母は今年のアカデミー賞で確実にオスカーを獲るだろうと言われていて、実際受賞したため僕もその強烈な演技は知っていたのだが、この映画に出てくる主要人物のすべてが実在の人物だとは思えなくなってくる。

無論このアリソン・ジャネイの演技も素晴らしい。完全なる毒親である。
シゴキあげることこそが教育において重要と考えている親で、トイレを我慢させてもスケートの練習をさせる。エンドロールを見ればわかるが再現度がえげつない。

また、アベンジャーズシリーズでバッキーを演じたセバスチャン・スタンが最悪のDV男を演じる。相手のことを愛しているが些細なことで暴力を振るう文字通りの男を演じている。別れようとしてもやはり相手に依存してしまう。だめんず・うぉ~か~だ。毒親と貧困だけでなくこんな男にまで引っかかってしまった。

居酒屋

最近ルネ・クレマンが監督した「居酒屋」を見たのだが、この話とも似通っている。エミール・ゾラによる名著を忠実に映画化した作品だったが、この話も貧しい一人の真面目な女性がダメ男に引っかかって没落する物語だ。クズ男や周囲の人間だけでなく、社会のシステムが原因で彼女の人生はどんどん沈んでいく。

僕は今この原作小説を読み進めている最中なのだが、冒頭でゾラはこう述べていた。

これは真実の作品であり、嘘をつかぬ、また民衆のにおいをもった最初の民衆小説である。だが、民衆というものが根っから悪いものだと結論してはならない。というのは、私の作中人物は悪くない。彼らはただ無知ではげしい仕事と貧困との生活環境にむしばまれているにすぎないからだ。

これは19世紀後半に書かれた小説だが、20世紀後半のアメリカでも全く同じようなことが起こった。「無知ではげしい仕事と貧困との生活環境にむしばまれている」という言葉が彼らにはそっくりそのまま当てはまる。

ダメ男に依存してしまったり、なんでも責任転嫁するトーニャがその数奇な人生を歩んだことは、トーニャに責任がなかったかと言われれば、少なからずはある。しかし、それは根っからが悪いというわけでもない。トーニャの母も、トーニャと同じような育てられ方をされていた(映画では描かれていないが)し、一概に悪いとは言えない。ただ、無知なだけなのだ。

地獄のような物語なので見るのが苦痛かと思いきやそうでもなく、楽曲などを用いハイテンションで描いているので、非常に見やすい。このスピード感により強烈な娯楽作になっている。

偏向とフェイク

トーニャはマスコミの偏った報道により悪者にされた。真実はもっと入り組んでいるうえ、ほとんど悪くないのに。この映画を見てマスコミはクソというのは簡単だ。そういう人たちはよくネットで「マスゴミガー」という。しかしそういう人に限ってネットのエビデンスのない情報を信じる。ネットの情報のほうがクソである可能性は高いのに。最近起こった国際信州学院大学のツイートみたいなこともあったり、これからの社会は、もっとリテラシーが求められる。

いろいろな人も言ってるけど、小保方事件とか佐村河内事件とか、ネットによって悪物にされた事件をこんなテンションで映画化しても面白いだろうなあ……。

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