「犬ヶ島」虚構の中で起こる出来事は虚構か

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ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞。ウェス・アンダーソンが日本を舞台に作ったストップモーション・アニメーションは評判通り、歴史に残る傑作だった。

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まだ「ファントム・スレッド」や「デッドプール2」、「レディバード」や「ニッポン国vs泉南石綿村」など見てない作品は数多くあるけれど、「シェイプ・オブ・ウォーター」「犬ヶ島」「スリー・ビルボード」という、バランスのいいフォックス・サーチライトの3本が今年の僕の2018年上半期ベスト3になるかもしれない。

今年のフォックス・サーチライト、びっくりするくらい良作揃いだ。特に今公開されている「犬ヶ島」は、最も日本人が見るべき作品だ。

あらすじ

近未来の日本。犬インフルエンザが大流行するメガ崎市では、人間への感染を恐れた小林市長が、すべての犬を“犬ヶ島”に追放する。ある時、12歳の少年がたった一人で小型飛行機に乗り込み、その島に降り立った。愛犬で親友のスポッツを救うためにやって来た、市長の養子で孤児のアタリだ。島で出会った勇敢で心優しい5匹の犬たちを新たな相棒とし、スポッツの探索を始めたアタリは、メガ崎の未来を左右する大人たちの陰謀へと近づいていく──。

先日「ピーターラビット」を見に行ったときにこの映画の予告編が流れなかったので、「なんで流さないんだよ!」と思っていた。子どもたちも興味ありそうなアニメーションなのに、なんで知名度をあげようとしないのか、と。

だがこの映画、子どもが見たとしても凄く頭のいい子でなければ理解できない。情報量が非常に多くて、それなりの教養が求められる。日本では先日亡くなった高畑勲監督のような作風だった。

誰もが凄いと思える理由

この映画の内容をあまり理解できなかったとしても、あまりにも洗練されすぎているその世界観には誰もが驚嘆するだろう。こんな映像世界、誰もが見たことないのだ。

ウェス・アンダーソン監督作は未だ「天才マックスの世界」「グランド・ブダペスト・ホテル」のような実写映画しか見たことがなくて、「ファンタスティックMr.FOX」や「ライフ・アクアティック」などに代表されるアニメーション作品は見たことがなかった。だがこの映像には驚嘆した。

加えてストップモーションアニメは、ヘンリーセリックが作ったようなもの(ナイトメアー・ビフォア・クリスマス、コララインとボタンの魔女等)くらいしか見たことがなかったんだけど、ダークなこれらの作品とは違ってとてもカラフル。見たことのない映像が繰り広げられる。

「グランド・ブダペスト・ホテル」と同じような世界を人形劇でやったと言えば、この作品を見たことある人にはわかるだろうが、ペイントをいたるところにぶちまけたかのようなカラフルさなのだ。
そもそも「ファンタスティックMr.FOX」自体そんな作品だと思うのでまた見てから書き直すと思います(笑)

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蘇るクロサワ映画

この映画のオープニング、第一章という文字とともにBGMが流れる。このBGMは、アカデミー作曲賞を2回受賞したことのあるアレクサンドル・デスプラが作曲しているが、佐藤勝作曲の楽曲のようにしか聞こえないのだ。
佐藤勝とは誰か。ゴジラのテーマ曲といえば誰でも分かるだろうが、黒澤明監督とよくタッグを組むことで有名な名作曲家だ。佐藤勝が作曲したかのような楽曲に加え、実際に佐藤勝が作曲し、「七人の侍」や「酔いどれ天使」で使われた楽曲をBGMとして使用している。

特にオープニングの曲は「用心棒」に似ているなと思いながら見ていた。黒澤作品を何作か見たことがある人にはかなりわかりやすい。「すげえ…」と思いながら見入った。バックでこの音楽が流れる中、映画が進行する。

虚構の中で起こる出来事

このカラフルなパラレルワールドはウェス・アンダーソン監督の脳内イメージを具現化したものだ。僕はまだ有名どころしか見たことがないけど、ウェスは「七人の侍」「天国と地獄」などといった代表作5本の指には入るような作品だけでなく、「悪いやつほどよく眠る」や「どですかでん」などといった作品に影響を受けた。そしてこの映画のストーリーは、これらの黒澤明監督がつくった社会派映画をミクスチャーにしたかのように進行し、それをファンタジックに描いた。
だが、ここで描かれていることが他人事に思えないのはなぜだろうか。

デモ、汚職、隠蔽、そういう風潮じゃないという「空気」、マスコミの洗脳、デマの拡散…

ウェスはこれを風刺として描いているのだろうか。そうだとしたら、ネット右翼の大嫌いな反日映画になるのだが。
だが、そういうわけでもないと思う。この映画でテーマにされていることは先程あげたクロサワ映画の中でもテーマとして扱っている。
虚構の中で起きたもののミクスチャーが、なぜこれほどまでに今の日本を彷彿させるのか。

社会に悪影響を及ぼすからと言う理由で犬を隔離しようとする政府や大衆を見て何か思わないだろうか。

反犬・親犬という概念や犬インフルエンザの意味するものは何なのだろうか。

もしこの映画を見て、今の日本を風刺している映画だと思うのであれば、この社会がちょっとおかしいのである。僕たちは改めてこれらの意味するものを考えなければならない。

 

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