「ワンダーストラック」<br>評価低いからって見ないのはもったいない

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ワンダーストラック

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観客からの評価は低いが批評家からの評価は高い。

いわば逆グレイテストショーマン状態だ。

トッド・ヘインズ監督作だし、見てて損はないだろうなと思って見に行きました。

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あらすじ

1977年、ミネソタ州ガンフリント。12歳のベン(オークス・フェグリー)は、母エレイン(ミシェル・ウィリアムズ)を交通事故で亡くし、伯母の家で暮らしている。父とは一度も会ったことがなく、母は「いつか話すから」と言いながら、なぜか父の名前すら教えてくれなかった。

ある嵐の夜、母の家に秘かに戻ったベンは、「ワンダーストラック」というニューヨークの自然史博物館の本を見つける。中にはキンケイド書店のしおりが挟まれていて、「愛を込めて、ダニー」と記されていた。きっと父親だと直感して書店にかけようとした電話に、雷が落ちてしまう。病院で意識を取り戻したベンは耳が聞こえなくなっていたが、父親を探すためにニューヨークへと旅立つ。(公式より引用)


確かに、この映画が退屈に感じるのもわからなくはない。

惹きつけられるような感じではなく、物語は淡々とすすむ。

なぜこんなに批評家からの評価が高いのかと思う人も多いだろう。

でも、撮影技法に注目すると、非常にレベルの高い作品だとわかる。

キャロル

この映画の監督、トッド・ヘインズの最近の代表作といえば「キャロル」がある。

1950年代の実話をもとにした、女性同性愛者の恋を描いたラブストーリーだ。

この手の映画は1950年代には作れなかった。

ヘイズコードという規制によって検閲、暴力や性描写に加えて同性愛も描くことができなかったからだ。

このテーマを1950年代によく作られたような映像美で描いた。

1950年代のカラー映画は、白黒映画と差別化したような、

徹底的にカラーコーディネート鮮やかな色合いのものが多い。

この技術を用いて、当時異端とされていた同性愛を美しく描いて、批評家から大絶賛された。

その時代の映画・サイレント映画

本作でも「キャロル」のように時代に反映させた技法を用いている。

あらすじで書いてある1970年代の少年の話に加え、

1920年代のある少女の話も並行して描かれるのだが、

1970年代のシーンは黄色がかっていて、1920年代はモノクロ。

この映画は1970年代、1920年代に作られたようなタッチで描いているのだ。

 

1970年代の映像では、監督がキネマ旬報のインタビューで

「フレンチ・コネクション」から特に影響を受けたと言っていたが、

「フレンチ・コネクション」のポスターのような色合いの中物語が展開される。

The French Connection

テーマが全然違うのは言わずもがななんだけど。

 

1920年代のタッチ。これは凄くわかりやすい。モノクロだし。

見るからにサイレント映画に出てくる怪物のような父親が出てくる。

ほかにも音の演出などが特徴的で、昔の映画を見ているような気分にさせる。

黄色がかった映像とモノクロ映像が並行して描かれるが、

サイレント映画を意識して作られている。

二人とも聾唖者だからアクションがサイレント映画っぽいのだ。

耳が聞こえない状況を描き、サイレント映画的な技法を多く用いている。

こんな映画、そういえば日本にも有名なやつがある。

あの夏、いちばん静かな海。

北野武監督の作品に「あの夏、いちばん静かな海。」という映画がある。

 

この映画は「稲村ジェーン」の反論として作られたことで有名だ。

「稲村ジェーン」とは桑田佳祐の監督作品で、サーファーの恋愛を描いている。

この映画を北野武は、映画評論連載のなかで

「音楽映画なのに無駄で邪魔なセリフがあり過ぎて、音楽を殺している。」

モルモット吉田著・「映画評論・入門!」から引用

とこき下ろした。これを知った桑田も言い返した。

そして「稲村ジェーン」の反論としてこの映画が作られた。

無駄で邪魔なセリフを極力排し、サーファーの恋愛を描いた作品を撮ったのだ。

こうしてつくられたこの映画の一番の特徴は、

主人公を聾唖者にしたことだった。

「ワンダーストラック」と同じですね。

このサイレント映画的なところが評価され、 淀川長治などの批評家からも絶賛された。

「あの夏...」は今も評価の高い北野監督の代表作のひとつだが、

「稲村ジェーン」はDVDすら発売されていない。

VHSはプレミアがついており幻の映画とされているが、忘れ去られかけている。

ヒューゴの不思議な発明

また違う映画の話になるが、「ヒューゴの不思議な発明」という作品があって、

「ワンダーストラック」と同じ原作者の作品がある。

 

この映画は巨匠マーティン・スコセッシの作品だが、

まあ「ワンダーストラック」と似たような作風だ。

しかも同じく昔の映画にオマージュをささげている。

映画史に残る名作、「月世界旅行」の監督、ジョルジュ・メリエスが作中に登場し、

「月世界旅行」に加え「ロイドの要心無用」といった古典映画にオマージュをささげている。

この映画と比較してみればわかる。

たまたま「ワンダーストラック」を見た直後にこの映画を見る機会があったのだが、

映像のつくりが全然違うのだ。

「ヒューゴ」も丹念に映像化されているけど、CGなどで作られた極めて現代的な映像美。

だけど、「ワンダーストラック」はタイムスリップしたかのように、

その時代の映像を再現している。

「ヒューゴ」もおすすめだけど、映像の観点からしたら間違いなく上手なのだ。

 

子ども向け映画にしてはよさが分かりにくく、退屈に感じる人も多いと思うけど、

アート映画としてとてもレベルが高いのだ。

近くに公開劇場がある方は視聴をお勧めします。

 

参考文献

 

※「あの夏...」の北野武VS桑田佳祐論争について書くにあたって参考させていただきました。

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