【7時間以上の映画】『サタンタンゴ』感想・評価|考察というよりもただ単に劇場で見た感想

【7時間以上の映画】『サタンタンゴ』感想・評価|考察というよりもただ単に劇場で見た感想

この前関西に行ったときの話。

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テアトル梅田で『サタンタンゴ』を見た。こんな映画を見たことがない。7時間18分の映画だ。加えて10分休憩が2回あるので、劇場に7時間40分いるということになる。

シネ・リーブル梅田&テアトル梅田 映画館情報

11時50分始まりで、映画が終わるのは19時30分。わけがわからない。早めの昼食を食って行ったら普通の夕食の時間に映画が終わる。こんなクソ長い映画見るの初めてだった。

長い映画

最近は長い映画ブームだ。

先日リバイバルされた小林正樹監督の『東京裁判』は4時間38分。フレデリック・ワイズマンの新作『ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス』は3時間26分。といったように、長尺の映画がどんどん公開されている。

その理由は言うまでもなく、Netflixを使えば家で良質な映像コンテンツが楽しめる今の時代の抵抗として、映画ファンが「劇場でしか体験できない」ものを求めているからである。家のテレビやスマホでは味わえない体験を求めているから、スクリーンでじっくり楽しむタイプの長丁場の映画が劇場で流れる。

そうして、映画館でしか体験できない3時間以上の映画が多く流れる中、その約2倍の長さを誇る映画『サタンタンゴ』がリバイバル公開された。クロード・ランズマンの『SHOAH』など、もっと長い映画はあるものの、ここまで長い映画で、かつ映画史に残るような作品はなかなかない。2019年公開の長尺映画のラスボスである。この映画を見る気はなかなか起こらないが、見たら一生モノの体験ができそうなそんな作品である。

この前関西に行ったとき、かなり迷ったものの、見ることにした。この映画を見たら関西旅行の1日が潰れる。大分や熊本でも公開されるし、今回の旅ではスルーしようかとも思った。だが、今年一番の大仕事は早めに片付けておきたかったので、テアトル梅田に向かった。

劇場料金は3900円。いつもサービスデーで1本1000円くらいで見ている僕としてはかなり高い。だが、7時間18分の映画を劇場で見るという貴重な体験ができることを考えると、背に腹は代えられない。1日かけてこの大作に挑んだ。

僕は今まで7時間を超える作品を劇場で見たことがないし、7時間以上の映画を1日に続けてみたことがある人なんて少ないと思う。加えてモノクロのアート映画難解だ。三重苦。劇場で寝落ちしたり置いてけぼりになりそうな要素が3つもある。なのでかなり不安に感じながら見た。

そしたら

・インターミッションのサインが出たら寝ないためにレッドブル・シュガーフリーを買いに近くのコンビニにダッシュする
・映画が始まる前(11時半)にご飯を食べたのに、映画の2部終わり頃に若干お腹が空く(19時半終了)
・見終わったあとはランナーズハイ的な脳内麻薬が出る
・ツイートする気まんまんで見てたのに映画が終わってご飯食べてゲストハウスに向かったらもうすでに深夜になっていて寝落ちしてしまった

という、普通の映画ではなかなか体験できないようなことが起こった。そんな稀有?な体験ができた『サタンタンゴ』、映画好きなら間違いなく見て損はない作品だった。

『サタンタンゴ』あらすじ・映画情報

公式サイトより引用

ハンガリーのある田舎町。シュミットはクラーネルと組んで村人たちの貯金を持ち逃げする計画を企てていた。その話をシュミットが彼の女房に話しているところを盗み聞きしていたフタキは、自分もその話に乗ることを思いつく。その時、家にやって来た女は「1年半前に死んだはずのイリミアーシュが帰ってきた」と、にわかに信じられないことを口にする。イリミアーシュが帰ってくることを耳にした村人たちは、酒場に集まり議論するが、やがてその場は酒宴となり、いつものように夜が更けていった。そして翌日、女の言葉通りにイリミアーシュが村に帰ってきた。

映画.comから引用

タル・ベーラの初期の代表作だ。タル・ベーラは『ヴェルクマイスター・ハーモニー』や『ニーチェの馬』などで知られており、世界中のシネフィルから大絶賛されているハンガリーの映画監督だ。そんな彼が30代の頃撮った『サタンタンゴ』は全編約150カットで構成されたモノクロ作品で、7時間超えのバケモノ映画だった。

この『サタンタンゴ』という作品は、日本では劇場公開・DVD等発売されておらず、輸入盤DVDを買って見るしか見る方法がなかった。この作品を僕が知ったのは1年前。海外サイトでの評価がえらく高いので(IMDb8.5/10・Rotten Tomatoes100%)いつか見てみたいなーと思っていた矢先、2019年初めごろにビターズ・エンド配給で劇場公開が決定したのでほんとに驚いた。

イメージフォーラムだけでの公開かもしれないなと思いつつ楽しみにしてたら、割と全国的に上映されることになって大阪とかでも上映されたので、今回大阪に行くついでに見に行くことにした。

『サタンタンゴ』感想・レビュー

おすすめ度 88/100

7時間18分が4時間半くらいに感じる映画だけどそれでも長えよ笑

サタンタンゴを生き延びろ

この映画、間違いなく映画館で見るべき映画だった。

この映画が上映されることを知ったとき、最初はなぜ、2日に分けて公開とかにしなかったのかと思った。前篇後編に分けて2日で上映ならまだしも、7時間超えの映画を1日一気に見る気なんてなかなか起きない。この公開の仕方によって見に行くのを諦めた人もいるだろう。なので、絶対に分けて公開するべきだと思った。

だがこの映画、1日かけて見るべき映画だった。

この映画は全3部に分けられていて、その間にインターミッションがあるという上映形式。2時間半くらい映画を見て、インターミッション。また2時間半くらい映画を見て、インターミッション。そして2時間半くらい映画を見て映画が終了する。

こう聞くと、映画を3本一気に見るような感じがしてとても疲れそうだ。だが、実際の体感時間はもっと短い。この2時間半が、1時間40分程度に感じるのだ。要は、3時間以上でインターミッションがある映画の、インターミッション前の前編と同じくらいの体感時間なのだ。

なぜかというと、おそらくこの映画の中で流れる時間がものすごくゆったりとしているからだろう。例えば、ある登場人物の家に来客があって、誰が来たのかをその登場人物の奥さんが見に行くというシーンがあるが、奥さんが部屋に戻るまでに30秒かかったりする。時計が刻む音を数えたら30あった。そんなシーンの連続なのだ。通常だと10秒で済みそうな動作を1分以上かけて撮影していたりする。

(出典:『サタンタンゴ』4Kデジタル・レストア版 予告篇)

7時間あるのに全編約150カットがこの作品の特徴の一つだが、奥さんが部屋に戻るまでの時間をずっと止めずに待ったり、ただ歩いているだけの姿をじっくり長回しで撮るような、そんなシーンが連続する。

その結果、この映画の中の時間は通常の時間よりもゆったりと流れている。そのため、実際は2時間半あるが、全く時間を感じさせないゆったりとした時間を過ごすことができるのだ。

3部とも、本当は2時間半くらい経っているのに、1時間半くらいに感じる体験ができるこの『サタンタンゴ』の総合的な体感時間は、かなり面白くて時間を忘れさせる3時間の映画に+おまけで1時間半くらいついてくるような長い映画を見たときと同じだ。

つまり7時間18分が4時間半くらいに感じるのだ。それでも長いけど笑

その他、この映画の体感時間が実際の上映時間よりも短く感じる理由として考えられるのは、ただ単に映像の美しさや物語の面白さの面でも優れているからだろう。

この映画の物語は簡単に言うと、搾取される側とする側の話だ。盗んで搾取する側に回ろうとする男たちや、搾取された腹いせに人間ではない弱者を痛めつける少女が出てくる。社会主義圏崩壊前のハンガリーの田舎町が舞台のこの映画は、社会主義のディストピアを描いている。

そしてその様を『桐島、部活やめるってよ』や『羅生門』のように、一人の登場人物の視点から物事を描いている。盗もうとする男やそれを観察する男、居酒屋でタンゴを踊る村人とそれを窓から眺める少女。などといったように、一つの物事を複数の視点から描かれており、伏線が回収されていくような面白さがある。それをゆったりと、7時間半かけて描いている。

一見シネフィル以外が見たらものすごく退屈しそうなアート映画なので、寝てしまいそうで心配だった。だが、映像の美しさや世界観の面白さ、先述の伏線回収もの的な面白さがあるので普通に見れてしまう。そして、先程も書いたとおり、この映画で流れる時間は非常にゆったりとしており、一部あたり2時間弱に感じる。それを3回見るだけで、「7時間以上の映画を完走」できるのである。この映画を劇場で見たもののことをサバイバーと呼ぶらしいが、1日潰れる覚悟で挑めば案外見れてしまう。そんな映画だった。

この映画を家で、DVDプレーヤーで再生したとしても、この体験はなかなかできないだろう。2時間半が2時間以下に思える映像体験など、なかなかできない。結構精神的にきついシーン(2部2章)もあるものの、割と普通に見れてしまうのだ。

東京裁判とニューヨーク公共図書館

2019年は長尺映画ブームだというのは先述の通りだが、『サタンタンゴ』は間違いなく、今年公開された長尺映画の中で最も劇場で見る価値のある作品だった。少なくとも、今年の夏にリバイバル上映された小林正樹監督のドキュメンタリー、『東京裁判』よりも明らかに映画館で見るべき映画だ。

『東京裁判』に関して僕の感想を簡単に書いておくと、「デジタルリマスター化された結果、今の時代に見てもびっくりするほどわかりやすいドキュメンタリーと化していて、Netflixで配信されてそうな優良コンテンツになっていた。逆に言えば、今の時代に見ると最早スクリーンで見る意義を見いだせない映画」という感じ。いつか詳しく記事にします。

『東京裁判』はものすごく明朗でわかりやすいナレーションと説明で日本近現代と東京裁判を振り返るドキュメンタリーで、非常に優れた作品だった。だが、スクリーンでノンストップで寝そうになりながら見るより、Netflixで4分割して、全4回1時間弱のドキュメンタリーにしたほうが明らかにコンテンツとしてわかりやすいと思った。この作品が作られた当初は、映画やテレビというメディアしかなかったが、映画の時代に作られたその良質なドキュメンタリーのデジタルリマスター版は、もはや時代的に考えてNetflixで配信するべきものと化していた。

『ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス』も絶対にスクリーンで見るべき作品なのか?と疑問に思ってしまうような作品で、寝そうになりそうな環境で見るべき作品ではないと思ってしまった。

だが、『サタンタンゴ』は違う。真っ暗闇の中でスクリーンを見つめる行為が時間を忘れさせ、ゆったりとした時間を過ごすことができる。この作品こそが、Netflix全盛時代に映画というメディアが新しい動画カルチャーに対抗しうる作品だった。

意外や意外

この映画を見ることで「7時間以上の映画を映画館で続けて見たことがある」という実績は解除できる。そしてそれは思いの外苦しむことなく達成できてしまう。

ただ、意外や意外。この映画を見たからと言って、他の3時間超えの作品が短く感じるわけではない。なぜかというと、この映画は見ごたえがあり、時間を感じさせない作りになっていて、7時間が4時間半に感じるだけでなく、夢中で見てしまうからである。

この映画をぶっ通しで見たことによって自信にはなるかもしれないが、この映画を見終えた後も、『風と共に去りぬ』や『十戒』は長く感じるし、『人間の條件』や『ファニーとアレクサンデル』はなかなか見る気が起こらない。7時間以上の映画を劇場で見たという実績を解除しても、3時間以上の映画を長く感じるという感覚は全く変わりません。

まとめ

「7時間以上の映画を映画館で続けて見たことがある」という実績を解除したので、余裕で『象は静かに座っている』(3時間54分)とかためらうことなく見に行けるようになるかと思ってましたがそんなことはありませんでした。『サタンタンゴ』を劇場で見たとしても、200分を超えるような映画は見る気がなかなか起こりません。

ちょっとそこは想定外でしたが、唯一無二の体験ができる作品です。1日潰れますが、一生モノの体験ができる作品なので、劇場でやってるうちにぜひとも見に行ってみてください。

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