「質屋」映画史に刻まれる傑作廃盤映画、ついに復刻

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凄い映画を見てしまった。

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三年前から見たくてたまらなかった作品ではあるが、期待以上でびっくりしている。

シドニー・ルメット監督の映画「質屋」

今年、「質屋」という作品がディスク化された。この映画はVHSでしか見ることのできない作品で、昔から見たくてたまらなくてリクエストしまくってた。まあこのことは以前投稿した記事にも書いているため割愛させていただくが、そんな作品が今年の1月にディスクが発売され、TSUTAYAの店舗にもレンタルDVDが置かれるようになった。

今回ようやく見ることができたのだが、ほんとに、よく出来ている作品だった。ここまで巧妙につくられた作品だと思っていなかった。

簡単にいうとこの映画は、ホロコーストについてはじめて取り扱った作品である。

ホロコーストの生き残りで、アメリカに移り住んで質屋を経営するユダヤ人を描いたドラマ映画だ。

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「ピクニック」の焼却

僕が最近見た映画に、ジャン・ルノワールの「ピクニック」という作品がある。地元の映画サークルの上映会でやってたため見に行ったのだが、第二次世界大戦前に製作されていた作品だ。

結婚を控えた娘が、家族でピクニックに出かけたときに出会った貧しい青年との夢のようなひとときをきらびやかに描いた作品だ。まあ簡単にいえばタイタニックみたいな状況ね。

この作品は伝説の映画として知られている。

なぜ伝説の映画と言われているのかというと、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に製作されていたこの作品は、第二次大戦勃発後、プリントをドイツ軍によって破棄されたのだ。しかし、フランスのシネマテーク(フィルム・アーカイブ)の創設者がオリジナルネガを保存しており、戦争後にプロデューサーなどの執念によって奇跡的に生まれた。

「質屋」は「ピクニック」で描かれていたような夢のひとときから始まる。スローモーションで、美しい風景の中、家族がピクニックをしている様子から唐突にはじまり、夢のようなひとときが描かれる。先月僕が見た「ピクニック」とおなじような光景だ。ピクニックをすることは当時、ささやかな幸せのひとつだったのだろう。

しかし、オープニングでは描かれないが、想像に容易い。

「ピクニック」という映画のプリントと同じく、ピクニックができるような日常、ピクニックをしていたユダヤ人家族は、全て焼却炉に移動されるのだ。

生きながらえたシャイロック

家族は皆殺されたが、かろうじて生き延びた主人公ソルは収容所から生き延び、質屋を経営している。

言わずもがなだが、この質屋という職業はユダヤ人を象徴する仕事である。

高利貸しで成功したユダヤ人は周囲から嘲笑の目を向けられた。

キリストの裏切り者というイメージとあわせて、「ヴェニスの商人」における高利貸しシャイロックのように、ユダヤ人という人種には守銭奴のイメージが植え付けられている。

国を持たず、宗教上タブーとされる金貸しで名を轟かせたユダヤ人は昔から差別されてきたのだ。

そして劣等民族のレッテルを貼られたユダヤ人たちは、20世紀には、アーリヤ人の血統を重んじ、健全でないものを全て殲滅しようとしたナチスによって駆逐されようとした。

要は、害虫駆除の要領でホロコーストは行われていた。

この差別は今も続いており、未だにユダヤ陰謀論やホロコースト否認論を主張する本やウェブサイトがあることからも自明だろう。それは日本のレイシストが韓国や中国などの人のことを「汚れた血が流れている」などと言って差別的思想を抱いていることと似ている。

今もなお続いているような差別で、ユダヤ人は滅びかけたのだ。

そしてこのホロコーストから生きながらえたソルは、質屋を経営し、ユダヤ人の伝統的ビジネスでコツコツ金をためている。収容所で精神を殺され、金しか信じない男になった彼は、質屋を経営する今も、金網の中に閉じこもり「収容」されている。

無情に客の希望よりもはるかに低い金額でものを買い取るソルは、守銭奴と罵られても動じない。だが、ことあるごとにあの頃の記憶がフラッシュバックする。

LOOK

この作品は「初めて乳首を解禁したアメリカ映画」としても知られている。当時のアメリカ映画はヘイズ・コードと呼ばれる自主規制によって暴力描写・性描写などを描くことはできなかったが、シドニー・ルメットは重要なシーンとしてこのまま上映することを勝ち取った。

質屋に来た黒人娼婦に乳房を見せつけられ金額をつり上げられるが、女性が言うLOOK(見て)という言葉とともに収容所の記憶を思い出す。様々なホロコースト映画でも描かれていたとおり、収容所では裸が当然だし、女性はナチスの将校の慰安婦として強制的に働かされていた。黒人娼婦の乳首によって衣服を剥がされた妻の姿がフラッシュバックする。

逃げようと思っても直視せざるを得ない過去に向き合わざるをえなくなる彼は、今もなお、地獄が続いているということを直視せざるをえなくなる。

彼はこの苦しみから解放されるのだろうか。

とにかく普通のドラマ映画とは思えない社会問題の盛り込み方のうまさに驚嘆しました。想像しえないような展開もして、ほんとに良く出来てるなと思いましたね。

あと密室劇を得意とするシドニー・ルメット監督らしいシーン、登場人物がしゃべり倒す場面にも圧倒されました。

鉄仮面のように無表情だった主人公が、後半になるにつれそうではなくなってくるところも、ほんとにすごかったです。

今年見た旧作のなかでもトップクラスの作品でした。おすすめです。

この映画を知ったきっかけの本です。今回文章を書くにあたって少々参考にさせていただきました。

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