「ファースト・マン」評価・感想|実話を描き明確になったチャゼルらしさ

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チャゼルらしくない。と、思った。

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デイミアン・チャゼルといえば、「セッション」や「ラ・ラ・ランド」で知られる、今後のハリウッドを担う映画監督だ。

「セッション」も「ラ・ラ・ランド」も音楽映画で、一流を目指すアーティストを描き、ラストが狂気に包まれている。ほぼ同じようなテーマを描いた二作に続いて製作されたこの「ファースト・マン」には、そういった共通点はない。エンドロールがスクリーンに流れているとき、「なんで撮ったの?」という疑問が頭に浮かんでいた。だが思い返せば案外チャゼルらしい作品だった。

「ファースト・マン」はアポロ11号の船長で人類初の月面着陸という偉業を成功させたニール・アームストロングを描いた伝記映画だ。しかし、その偉業をドラマティックに描いているのではなく、宇宙飛行をアトラクションのように描いた、伝記映画にしては奇妙な作品だった。

「ファースト・マン」の評価

観客の評価は普通。評論家の評価は高いといった印象。

そもそも評論家界隈から評価の高いチャゼルの最新作なので、注目されている。だが、あまり映画を見ていない層はぽかんとするような作品だった。この評価のされ方、とくに技法的な点を評価されているということからノーランの「ダンケルク」を彷彿とさせるような作品だった。

感想

おすすめ度 73/100

一言感想・映画館で体感しときたい作品ではあるものの、普通の映画館だと物足りない感じがするアトラクション映画。

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「ダンケルク」×「インターステラー」

先程も書いたとおり、観終わった感じは「ダンケルク」に似ていた。

「ダンケルク」はクリストファー・ノーラン監督の戦争映画で、戦場のリアルを体感させるアトラクション映画だった。だが、ノーランの代表作、「ダークナイト」「インセプション」などに比べてかなり地味な作品だったので、観客の評価はそこまで高くない。それはAmazonのレビューの☆の数が物語っている。淡々としていて、見せ所自体少ない作品だったので、ド派手な戦争映画を期待した人はがっかりしただろう。

ノーランはCGを嫌っているため、ほとんどのシーンを実写で映画を撮影することで知られている。

どう考えても、実写で撮るのが難しい超現実な映像を、どう考えても実写で撮っているようにしか見えないようにミニチュアなどを駆使して撮影する。
その映像を見て、観客は度肝を抜かれる。現実と乖離しているのにリアルな映像を見て圧倒される。

だが、「ダンケルク」には、超現実な装備をしているバットマンが敵を倒すシーンもなければ、無重力状態でぐるぐる回るホテルの中で殴り合うアクションシーンも存在しない。ただ、戦場の中を必死に生き延びようとする兵士やパイロットの姿を淡々と描いている。

事実に基づいて、全年齢でも見れるような過激さで、リアルな戦場を体感させるように作られているため、超現実な映像をリアルに撮影したノーラン映画に慣れていた人にとって、ちょっとびっくりするような作品だった。

今回「ファースト・マン」を撮ったデイミアン・チャゼルも、超現実なシーンが印象的な映画監督だ。ノーランと同じような評価を受けていて、アカデミー賞を賑わせ、今後のハリウッドを担う若手映画監督として知られている。加えて、どちらも映画秘宝系評論家から嫌われている笑

「セッション」はドラマーを志す学生が鬼畜コーチにしごかれるドラマ映画だが、ラストがぶっ飛んでいる。絶望的な展開になった後、現実ではなかなか起こりえない演奏シーンが始まり、ハイテンションのまま映画が終わる。

「ラ・ラ・ランド」は全編きらびやかな映像と心地よい音楽が流れるミュージカル映画だが、物語自体はほろ苦い。「シェルブールの雨傘」などを下書きにした物語だ。そして終盤は、そのほろ苦さを払拭するような狂気のミュージカルシーンがスクリーンに広がる。「雨に唄えば」などの往年のハリウッド・ミュージカルを彷彿とさせる、狂った映像に圧倒される作品だった。

そしてそれに続いて作られた「ファースト・マン」には、こういったシーンは全くなかった。「ダンケルク」で味わった「ノーランらしくない」という感情を、チャゼルの新作で再度味わったのだ。

ノーランが「ダンケルク」の前につくった作品に「インターステラー」という宇宙をテーマにした作品があったが、それを「ダンケルク」のテンションで描いたような作品だった。

「ダンケルク」と「ファースト・マン」には共通点が多い。それは、ファンタジックな映像が印象的な作品を取り続けてきた監督が挑んだ史実を元にした作品だという点と、それによって作家性が顕著になったという点だ。ノーランとチャゼルの共通点は、ドラマ性よりもアトラクション性を尊重する点だ。

映画とアトラクション

「ファースト・マン」を撮る際、デイミアン・チャゼルはニール・アームストロングの人生を描こうとしなかった。

そもそもニール・アームストロングは宇宙飛行士として人類初の偉業を成し遂げるような、全く動揺せず感情を出さないタイプだった。なのでこの映画を、感情揺さぶられるドラマ重視の伝記映画として撮影するのは非常に難しかったのだ。

そのかわりアトラクションとして撮影した。宇宙船の中で危機的状況に陥る様や、月面着陸までの過程などをリアルに体感させるように作った。

「ダンケルク」も戦場を体感させる作品だった。「セッション」も「ラ・ラ・ランド」も「ダークナイト」も「インセプション」も「インターステラー」も、「ファースト・マン」も同じだ。すべて、ドラマよりも体感を重視した作品だ。

なので、この映画にドラマ性がないという批評をするのはナンセンスです。人類初の月面着陸という偉業を観客に体感させるために、ドラマ部分を削って宇宙飛行を体感させる、映画館で見るべき作品です。

ただこの映画、普通の映画館だとかなり物足りない。

IMAXやドルビーシネマのように、映像に圧倒されるような環境で見たり、4DXのように宇宙船の揺れも体感できるような環境でないとちょっと物足りないなあと思いました。

なので見るのなら、IMAXやドルビーシネマ、4DXで見るべきです。こういう点でも「ダンケルク」に似た作品だったなあ。

なるべくいい環境で見るのをおすすめします。

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