『グリーンブック』映画の評価&個人的感想|2019年のアカデミー作品賞受賞作は果たしてリベラルなのか

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今年のアカデミー賞を制した『グリーンブック』を見た。

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個人的な感想としては、あまり期待せずに見たら、期待通りだった。という感じ。思ったよりも保守的な作品でしたね。

『グリーンブック』とは

『グリーンブック』はピーター・ファレリー監督、ヴィゴ・モーテンセン×マハーシャラ・アリのダブル主演で送るロードムービーだ。

イタリア系の用心棒が、黒人のジャズピアニストの運転手として、ともに南部の差別の色濃い地域を回る作品で、トロント映画祭で観客賞を受賞、その後アカデミー賞でも作品賞や脚本賞、助演男優賞(マハーシャラ・アリ)が受賞した。

アカデミー賞授賞式の数日後にあたる3月1日から公開されたので、日本でもそこそこヒットしている。

今年のアカデミー賞で有力候補とされていたのは本作と宮廷ドラマの『女王陛下のお気に入り』、そして『ROMA/ローマ』だ。

この2作と『グリーンブック』がアカデミー作品賞を獲るだろうと言われていたが、僕は80%の確率で『グリーンブック』が獲るだろうなと思っていた。

第91回アカデミー賞総括

2011年と2019年

今年のアカデミー賞のノミネート作品が発表されたとき、2011年のときと似ているなと感じた。

2011年は『英国王のスピーチ』と『ソーシャルネットワーク』が戦った年だ。後者はFacebookの創始者マーク・ザッカーバーグを主人公にしたドラマ映画なので、時代性に富んだ作品だったが、前者はいつ作られてもおかしくない伝記映画。だが、ハリウッドは作品賞に前者を選んだ。この結果は賛否両論を呼んだ。

そして今年は『グリーンブック』『女王陛下のお気に入り』と、『ROMA/ローマ』が戦った。

僕がなぜ『グリーンブック』が8割方獲るだろうと思っていたのかというと、3本の中で最も映画映画した、保守的な作品のように感じたからだ。いわば2011年の『英国王のスピーチ』に似た作品だったのだ。

『ROMA/ローマ』はアルフォンソ・キュアロン監督による自身の経験をもとにした芸術的な作品で、非常に評判のいい作品だが、Netflix配信。配信映画のジャンルにくくられる作品はまだ作品賞を取れないだろう。

加えて、『女王陛下のお気に入り』も、監督の変態性が顕著にあらわれており、高級フレンチの隠し味ににんにくとブルーチーズを入れた結果、入れすぎて隠し味どころではなくなったかのようなクセの強い作品だった。『英国王のスピーチ』と同じく、アカデミー賞で人気の高い宮廷ドラマだが、あまりにも強烈な内容だった。

そのため、万人受けしそうな『グリーンブック』が獲ると思っていた。

唯一の不安材料は『ハングオーバー』や『TEDテッド』などといったお下劣コメディの先駆として知られている、『メリーに首ったけ』の監督の最新作ということだろうか。ピーターとボブのファレリー兄弟は、こういったコメディ映画ばかりを製作していた。

そのため、コメディ出身の監督や俳優が弱いアカデミー賞においてマイナスポイントになるのではないかという懸念もあった。

だが結局、最も万人受けする作品だった『グリーンブック』が今年のアカデミー賞を制した。この結果を見て「やっぱり2011年みたいな感じだったな」と思った。

『グリーンブック』が批判されている理由

この作品はアカデミー賞にふさわしくなかったという声もよく聞く。

アカデミー作品賞が発表されたとき、会場にいたスパイク・リーは怒りのあまり飛び出そうとした。

3月22日公開の『ブラック・クランズマン』の監督で、今年のアカデミー賞で脚色賞を同作で受賞したリーは、この映画が許せなかった。人種差別を白人側の目線で、白人に伝える映画だと、彼は『グリーンブック』について述べている。

加えて彼の代表作『ドゥ・ザ・ライト・シング』が世間で注目されたときにアカデミー作品賞を受賞した作品、『ドライビングMissデイジー』は金持ちのユダヤ人女性と黒人ドライバーの交流を描いたものだった。最新作で脚色賞を受賞したリーにとって、誰かが運転する映画には因縁があったのだ。そして『ドライビングMissデイジー』のように白人の召使いを黒人が演じる映画を嫌っていた。

だが、『ドライビングMissデイジー』と違い『グリーンブック』は関係性が逆になっている。ユダヤ人雇用主と黒人ドライバーから、黒人雇用主と白人ドライバーにチェンジしている。そして素養のある貴族のような黒人と、あまり頭の良くないチンピラのような白人のロードムービーとして描いている。そのため、従来作られてきたこの手の映画よりも、注意深く、綿密に作り込まれている。

リーは黒人奴隷だった男が賞金稼ぎになり白人奴隷主を殺しまくる『ジャンゴ繋がれざる者』に対しても批判していることからも分かる通り、差別を扱った映画の好き嫌いが非常に激しい監督として知られているが、同様の声は他の黒人映画関係者からもあがっている。

と、この作品を語るうえで重要になってくる事柄をまとめたところで、僕がこの作品を見てどんな感想を抱いたのか、書いていきます。まずその前にあらすじ&作品情報から。

『グリーンブック』あらすじ・作品情報

1962年、ニューヨークの高級クラブで用心棒を務めるトニー・リップは、クラブの改装が終わるまでの間、黒人ピアニストのドクター・シャーリーの運転手として働くことになる。シャーリーは人種差別が根強く残る南部への演奏ツアーを計画していて、二人は黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに旅立つ。出自も性格も違う彼らは衝突を繰り返すが、少しずつ打ち解けていく。

実話をもとに、人種の違う二人の交流を描いた作品だ。

監督はピーター・ファレリー。

『メリーに首ったけ』『ジム・キャリーはMr. ダマー』などに代表されるお下劣コメディ映画で知られているファレリー兄弟の長男。ファレリー兄弟の作品は過激なギャグが印象的だが、ちゃんと身障者を一人の人間として扱っている描写があることで有名だ。

イタリア系用心棒、トニー・リップを演じるのはヴィゴ・モーテンセン。

『はじまりへの旅』の中で、資本主義に辟易し森に引きこもって子供を育てている博識かつマッチョな家庭の父を演じたヴィゴ・モーテンセンが『アンタッチャブル』のときのロバート・デ・ニーロ(アル・カポネ)を彷彿とさせるようなビジュアルの役を演じる。

そして、『ムーンライト』や最近だと『アリータ・バトル・エンジェル』などにも出演しているマハーシャラ・アリが黒人のジャズピアニスト、ドクターシャーリーを演じている。

あと『スパイダーマン・スパイダーバース』にも主人公のおじさん役として声を当てており、どう見ても「これマハーシャラ・アリだな」としか思えないビジュアルの役柄。計3本、現在映画館で見れる作品だと3本、マハーシャラ・アリが出演しているということになる。

『スパイダーマン・スパイダーバース』レビュー

『グリーンブック』の日本における評価

アカデミー賞では物議を醸した作品だが、日本での評判は非常に高い。公開時には「本当にアカデミー賞にふさわしい作品ではなかったのか」「『グリーンブック』が受賞に値しないという論調は本当なのか」といったような記事がよくあがっている。こういった意見に反論するかのような記事ばかりだ。そして観客からの評価も割と高く、今のところ検索してみても高評価なレビューが目立つ。

では、感想を書いていきます。

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『グリーンブック』個人的な感想

おすすめ度 72/100

一言感想・関係性こそ真新しいが非常にスタンダードで保守的な作品。

思ったよりも普通でした。普通というか純映画的というか。演出等で評価される理由もわかるけど、既視感があった。

監督のピーター・ファレリーが考えさせられるドラマ映画を作ったと聞いて抱く期待通りの作品にはなっている。まあまあ面白い実話ものドラマ映画にはなっている。

だけど、期待を超えているわけではなく、個人的に少々物足りなさを感じた。「ピーター・ファレリーが製作した良質な実話ベースドラマ映画」と聞いて思うイメージを超えていないのだ。

コンセプトはかなり真新しい。差別的な白人が運転手で、黒人の貴族みたいな天才が雇い主のため、『ドライビングMissデイジー』とは違い革新的だ。とはいえど、運転手と客が交代したものの、描かれる物語はスタンダードなロードムービーと同じような感じだ。

無論、完成度は一定のレベルを超えている。

演出面では『メリーに首ったけ』のピーター・ファレリーらしいコメディシークエンスもある。過激なネタはないものの、笑えるシーンがうまくて面白い。

そしてライトではあるものの、黒人差別について真っ向から描いている。1960年代の凄惨な黒人差別の実態を知るにはキャスリン・ビグロー監督の『デトロイト』のほうが明らかに優れているものの、わかりやすく、どのような差別が行われていたのかを垣間見ることができる。

子供が恐怖心を抱かない程度に、簡潔にわかりやすく描かれている。もはやホラー映画のようだった『デトロイト』とは違い誰が見ても楽しめ、かつ考えさせられる作品だった。

先程作品情報のところでも述べたとおり、『メリーに首ったけ』に代表されるファレリー兄弟の作品は、身障者差別についてちゃんと描いたものばかりだ。

彼らの作品は身障者をちゃんと一人の人間として扱っており、過激なコメディながらもこういった問題をちゃんと描いていることで知られている。その長男のピーターが黒人差別を題材にしたドラマ映画を作ったのなら、差別について考えさせられる、それなりに質の高い作品が出来上がって当然なのだ。

二人は南部に向かってドライブするごとに、ひどい差別を体験する。

黒人といえばフライドチキンというステレオタイプが出てきたり、黒人の目に見えた差別から目に見えないけど差別的な空気感を体験する。

※詳しくは前の記事に書いているが、黒人差別とフライドチキンの関係性について知りたいのならば上原善広著『被差別の食卓』とNetflixのオリジナルドキュメンタリー『アグリーデリシャス』第6回がおすすめだ。この2つのコンテンツの感想記事はこちら

わかりやすくスタンダードな作品だ。だが、期待を超えてこず少々物足りなさを感じてしまった。ハリウッド映画を一定以上見ている人にとって結構常識的な差別ばかりなのだ。

わかりやすい差別をシンプルに描くことこそが、差別を知らない人が理解する一歩としてふさわしいのではあるんだけど、既視感があった。そのため、スパイク・リーなどがこの作品を批判する理由もなんとなくわかるなあという感じがした。

そして物語のプロットで、最終的に行き着く結論も既視感がある。僕が好きな映画も同じような帰着をするからだ。このことを書くと両作品ともネタバレになってしまうので詳しくは書かないが、ドクターシャーリーの旅の目的とその結果の結論は「あー『〇〇〇〇〇〇〇』みたいな目的でああいうオチになるのね」って感じがして既視感があった。

うまくまとまってるなあとは思ったけど少々物足りなかった。設定以外でももっと冒険した作品だったら自分好みだった。実話だから難しい気もするけど、もうちょっと超えてほしかった感はあった。

まとめ

不謹慎なお下劣コメディを作り続けたピーター・ファレリーがそこで培ったノウハウを駆使しつつ正当なドラマ映画を作った教科書的な内容で、わかりやすく「差別はいけない」と観客に問いかける作品だった。

誰が見てもまあまあ面白い以上の作品にはなっているとは思うのだが、僕にとって結構既視感があって少々物足りなさを感じた。

今年のアカデミー賞の特徴として、『ブラックパンサー』の大躍進と『スパイダーマン・スパイダーバース』の長編アニメーション映画部門受賞、そしてお下劣コメディばかり作ってた監督がシリアスな題材を万人受けするように作った『グリーンブック』が作品賞を受賞。と、結果としてはアート映画優遇ではなくコミック映画やコメディ出身の映画人の作品でも、質の高い作品が受賞するというリベラルな流れになった。

とはいえど、今年のアカデミー賞で作品賞を受賞した『グリーンブック』の内容自体はそこまで真新しいものではない。設定こそひねりが加わっているものの、それ以外は教科書どおりのスタンダードな作品だ。質は高いけれど、こういった万人受けする昔ながらの映画のような作品が、『ROMA/ローマ』等を抑えてアカデミー賞を受賞した。『英国王のスピーチ』が『ソーシャルネットワーク』を抑えて受賞したときみたいに、アカデミー賞はまだまだ保守的な作品が強いんだなあと思いましたね。

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